小説学園ネジヒナ@ |
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日向ネジには大嫌いな人間がいる。 |
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それは従妹の日向ヒナタ。 |
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本家のお嬢様で、ネジの父親が重役を勤める会社の社長令嬢でもある。 |
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しかし日向ヒナタが、お嬢様だからといって威張る事はない。 |
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それどころか、普通の少女たちよりも腰が低いくらいだし |
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非常に優しく温和な気性である。 |
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ついでにいうならば、ひとつ年上とはいえ社会的身分が下である |
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ネジに対しても、決しておごる事がない。 |
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逆にネジの方が彼女に対して相当高飛車で、きつくあたっていた。 |
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しかしヒナタはそれを父親に言いつける事もなく、涙を流しつつも耐えてしまう。 |
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幼いころからそうだった。そしてそれがネジには非常に腹立たしかった。 |
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だからヒナタが自分と同じ木の葉学園に新入生として入学してきても |
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親戚として面倒を見てやろうとか、全く考えていなかった。 |
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彼がヒナタにする事といえば、冷たくあしらうことくらいだろう。 |
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生徒会長で学園でも有名人のネジを、ヒナタは秘かに憧れていたが |
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ネジは彼女の気持ちに気付きつつも完全無視を決め込んでいた。 |
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それが春のことだった。そうして今は秋。ネジは生徒会室で体育祭の打ち合わせなど |
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していたが、生徒会のメンバーがそれぞれの担当書類に没頭し始めると、手が空いたので |
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何気なく窓の外に目をやった。すると大嫌いな日向ヒナタが東館の玄関口に立っているのが |
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目に入る。見たくもない人間の姿にネジは不機嫌になったが、どういうわけか目が離せなかった。 |
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周囲が書類に夢中でネジの動向に気がつかないので、ネジはあからさまに窓辺から彼女をみつめる。 |
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するとヒナタがもじもじとしながら遠目にも顔を赤らめているのがわかった。 |
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(ぐずが…また何か失敗でもしたか?) |
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あがり症のヒナタは、緊張のあまり、よく失敗をする。そして真っ赤になって何も言えなくなるのだ。 |
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ふん、と鼻を鳴らしてネジはヒナタを嘲笑った。まったくあれが名門日向の跡取りとは情けない。 |
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(ヒナタ様は本当に情けないお方だな。) |
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心の中でネジはいつも彼女をそう呼ぶように、ヒナタ様と呼んだ。 |
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今の時代、いくら名家とはいえ、様づけで呼ぶことはなかったが、ネジはわざと彼女を様づけにしていた。 |
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そうすることで、彼女との近しい立場を切り離したかったからだ。とにかく距離を置きたかった。 |
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あんな愚図と従兄妹だなんて冗談じゃない、いつもそう思っているから、ヒナタ様と呼ぶ。 |
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ネジが、ヒナタに抱く嫌悪や蔑みの感情を思いめぐらせていると、ヒナタの正面に誰かが立った。 |
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それは最近転校してきた男子で…問題児だと教師が騒いでいたから覚えていた。 |
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確か、ヒナタと同じクラスに編入したと記憶している。ネジがいぶかしげにその二人を観察していると |
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いきなりヒナタが頭を下げて手を伸ばし、手紙をその男子に差し出していた。 |
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「?!!!」 |
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ネジはその光景を目の当たりにした瞬間、体が凍りつくのを感じた。何かに心臓がつかまれたような衝撃だった。 |
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声をなくして固まるネジの視線の先で、ヒナタが微笑んでいる。 |
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男子は…ネジの側からはちょうど背を向けているので、表情はわからなかった。 |
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だがヒナタは微笑んでいる。 |
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ネジは目の前が真っ暗になり、己が底なしの闇に落ちていくような感覚に襲われていた。 |
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